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>>156 「ひな人形」のシールを貼られ、完全に置物へと成り果てた彼女たちは、その後、老舗の人形店へと運び込まれた。

色鮮やかな振袖を纏い、背筋を伸ばして座るその姿は、あまりにも精巧で美しい。しかし、彼女たちの中には、かろうじて「意識」だけが、冷たい檻に閉じ込められたように残っていた。

店内には、春を待つ家族連れの笑い声が響いている。だが、そこに向けられる視線は、人間に対する敬意ではない。単なる「商品」としての、冷徹な値踏みだ。

「ねえ、この子はどう? 顔立ちはいいけど、ちょっと値段が高すぎるわね」

一人の客が、最前列に並べられた元・女子大生の鼻先に顔を寄せ、じろじろと観察する。彼女の視界には、客の品定めするような下卑た顔が映っている。指を動かしたい、叫びたい。しかし、首から下は石のように固まったまま。ただ、自分が100万円、150万円という「値札」によって格付けされているという事実に、激しい屈辱が込み上げる。

「こっちの子は少し安くなってるわよ。ああ、なるほど、ちょっと頬のラインが野暮ったいのかしら」

露骨な比較。かつては個性的で美しかったはずの彼女たちの容姿が、客たちの勝手な好みで「上等」か「並」かに分類されていく。意識がある彼女たちにとって、それは魂を削られるような拷問だった。物欲の対象として、まるで家具や食器と同じように論評される。絶望に震えても、その震えは人形の硬い皮膚を揺らすことすらできない。

やがて、春の盛りを過ぎると、残酷な「選別」の結果が顕著に現れ始めた。

容姿が秀でていた者や、衣装が豪華だった「人形」たちは、裕福な家庭へと買われていった。彼女たちは最後、箱に詰められる瞬間に、仲間たちが残される光景を横目で見る。助けてあげたかった。しかし、買われていく側もまた、一生誰かの座敷で、ホコリを被りながら見せ物にされる運命に変わりはない。

そして、最後に残されたのは、誰からも選ばれなかった「売れ残り」の女たちだった。

「この子たち、結局売れなかったわね。もう時期外れだし、倉庫に下げてちょうだい」

店員たちの声は冷ややかだ。あんなに真剣に弓を構え、輝いていた日々は何だったのか。誰からも望まれず、価値がないと判断された惨めさが、消えない意識を蝕んでいく。
彼女たちは、暗く埃っぽい段ボール箱へと押し込められた。隙間から見える店内の照明が消えていく。

「五月人形の弓と一緒に飾ってやる」と言った主の声が聞こえる。
暗闇の中、彼女たちの横には、かつて愛用していた弓が「弓太刀」として雑に放り込まれていた。かつて武道の誇りだったその弓は、今や人形を飾るための、単なる木の棒でしかない。

売れ残った絶望と、逃げられない永劫の静寂。
彼女たちは暗闇の中で、一生解けない呪い――「ひな人形」という概念の檻に閉じ込められたまま、次の買い手が現れるか、あるいは朽ち果てるのを待つことしかできなかった。その目には、もはや一筋の光すら宿っていないが、心の中では終わらない叫びが木霊し続けている。

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