616

「幻の演奏会」 ⑥ゲーマーと武道

「おっつ〜武道〜」
ゲーマーが友達感覚で挨拶をする。

「うっす。ラッパーから聞いたんすけど、
バンドガールって職員がバンドやってるらしいっす。そんでゲーマーさんにスカウトお願いしたいんすけどいいすか?」

言葉遣い……。部活じゃないよ?ここ職場だよ?

「へぇ〜知らなかった〜。いいよー!言っとくー」
「うっす。お疲れっす。失礼しやした」

しやした……。

武道が去ったことを確認したゲーマーが口を開く。

「あいつやばくない? すごい苦手なんだけど。
ラッパーといる時は何とかやり過ごせるけど
ピンであの相手はキツいキツい……。
ここクラブ活動じゃないんだよ? マジ無理〜。」

武道に関してはゲーマーと気持ちがシンクロしていたらしい……。嬉しいような悲しいような……。

「ね、スレンダー?よくあれでここに採用されたのか
マジ疑問じゃない? ねぇスレンダー?聞いてる?」

ゲーマーが子供のようにはしゃいでいる。


「うん。ちゃんと聞いてる。そして『聞かれてる』」

スレンダーが扉のガラスの向こう側に移るシルエットを指さす。

「武道に」

そこには確かに武道のシルエットがあった。

「あ、違っ……」とゲーマーがフォローに走ろうと
したが、シルエットは姿を消してしまった。

あーあ、気まずいやつだ。

人気の記事