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二人で料理を作りながら、実里ちゃんが普段より少し大きな声で「それだよ!取ってって言ったじゃん!」とか先輩彼氏にタメ口で話していた
流しの窓が開いているから、会話は聞こえる
影も見える
リビングで野菜炒めを食べている様子は、出窓から見えた
出窓とブロック塀の間は人ひとりが通れる程度しかなく、普通は誰も通らない
だからレースの布を下げてあるだけだった
夜に部屋の電気が付けば、室内はそのまま見えてしまっていた
ベランダ側も、2メートルくらい先に倉庫の壁があるだけなので、季節によっては窓を開けレースのカーテンだけにしていたり、カーテンに隙間があることもあった
勉強もできるし、几帳面な印象のある実里ちゃんにしては、不用心な気もしたがありがたいことだった
出窓のすぐ下にベッドがあり、小さな机と、こたつにもなるテーブル、カラーボックスが二つ、クローゼットが大きめの部屋だった
実は、初めて覗いた日にも彼氏は来ていたのだが、実里ちゃんが生理中だったようで、これといった収穫はなかった
寝る前にキスをしたくらいだった
(その時はじゅうぶん興奮したが) -
少し端折るが、何回かに一回は、電気を付けたまま、出窓の下のベッドでHをするのが見られた
風呂上がりの裸を見た時も、風呂場でいちゃつく声を聞いた時も、電気を消された部屋から喘ぎ声が漏れてきた時も興奮したけど、二人が電気を付けたままベッドで抱き合い始めた時は、心臓は早鐘を打ったようになった
寒かったはずなのに体が火照ったようになり、なのに武者震いするような、普通じゃない状態になっていた
間近に見る実里ちゃんの全裸
感じている表情
少し照れながら、でも当たり前のように彼氏のを咥える様子
胸が、心臓が締め付けられるようになりながら凝視していた
一瞬ヒヤッとしたのは、彼氏が出窓のスペースに置いてある箱からゴムを取り出した時
慌ててしゃがんだが、見つかることはなかった
Hは、いつもノーマルというか、控え目なものだった
フェラや69など長くない前戯のあと、正常位で挿入し、それだけで終わることもあれば、たまにバックや対面座位、騎乗位、いずれにしても5分足らずだった
でも、意外に豊かな胸が揺れたり、思ったより濃いめのヘアが見れたり、さすがに挿入部分は見れないけど、漏れる声と実里ちゃんの表情で大満足だった
Hが終わり、二人が寝ると、大急ぎで自分の部屋に戻り、思い出しては一人でしていた -
ある時、出窓の鍵が掛かっていなかった
それまでにも施錠されていないことは何度かあった
そんな時は、見つからないように1ミリでも2ミリでも隙間を開けていた
それだけで室内の音の聞こえ方が全然違うのだ
まるで二人の営みを同じ部屋にいて聞いているような感覚になった
その日、なぜそんなことを思いついたのか、理由はわからない
ちょっとしたイタズラ、魔が差したような、軽い気持ちだった
コンビニに行き、手袋と裁縫セットを買った
その日は、彼氏は来ていなかった
実里ちゃんが風呂に入っている時に、出窓を開けて、箱を持ち出すと、中に無造作に入っているゴムにプスプスと針を刺した
部屋からは甘い香りが漂ってきて「実里ちゃんの匂いだ」と思ったのを覚えている
一度、箱を戻して、なんとなくもう一度手に取り、入っていた10個ほどのゴムのうち、さらに3つくらいに穴を開けた
たぶん半分くらいには針を刺した気がする
その時は、それが大事になるとは思わなかったし、その後も、そのゴムを普通に使ってHをする姿を見させてもらった
ところが、1ヶ月か2ヶ月してからのこと
その夜は電気を消してHを始めたので、出窓の下や脇で、漏れてくる声を聞いていた
ギシギシという音のペースが上がり、実里ちゃんの声も大きく、切ない感じになり、彼氏の「ああっ」という声もし始める
「そろそろフィニッシュだな」と思いながら聞いていると、二人の声が大きく重なって、ギシギシ音が止まった
少し間があり、彼氏の「うわぁ!」という声がしたかと思うと部屋の電気がついた -
彼氏の根元には破れたゴム
戸惑う実里ちゃん、謝る彼氏
バタバタと風呂場へ駆け込む二人
風呂から出てパジャマを着た二人は、小声でひそひそ話
どうやら、生理不順気味なので危ないのか安全なのかもわからない、みたいな話をしているよう
僕は、その時になって初めてうろたえていた
それから怖くなって、半年くらい覗きは止めた……というと聞こえはいいが、他にも何か所か覗ける部屋を見つけ、そこへ行っていた
実里ちゃんの部屋は避けていた
ただ、大学で顔を合わせれば、なんとなく変化には気付く
いや、原因を知っているから変化したように思っただけかもしれない
かなり経って、次に実里ちゃんの部屋を覗いたら、違う男が来ていた
普通にHもしていたから、それからは卒業間際まで何度も覗いてオカズにした
卒業して何年かたち、一番仲の良かった男女4人で再会し、かなり飲んだ
その時に「男の子たちは知らなかったでしょうけど…」と、実里ちゃんが中絶したことを聞かされた
なんとも言えない気持ちになった
一方で「やっぱり」と、安心するようなおかしな気持ちにもなった
実里ちゃんは、もう結婚して2児の母らしい
コレが僕の卑劣な行為だ
20年くらい前の話
今まで誰にも言ってこなかった
ゼミのアイドル的存在だった子を妊娠させてしまった
といっても僕の子供ではない
その頃、僕は夜な夜な彼女のアパートの部屋を覗いていた
彼女は色白でおっとりしていて、女子にも人気があった
当時の写真を見ると、彼女はいつも真ん中にいる
センターにいたがるんじゃなくて、彼女の周りにみんなが集まるからセンターになる、といった感じだった
名前は実里ちゃん
実里ちゃんのアパートの部屋は、玄関の先に流しがあって、隣に風呂とトイレ
奥にリビング
角部屋のためリビングにはベランダのほか出窓もあった
風呂は外の通路に面していて小さな窓もあった
流しの横の冷蔵庫を置くスペースの上にも窓があり、ここは柵もついていたので、いつも少し開けて網戸にしていた
部屋がわかったのは大学1年の冬で、それから通うようになった
大学は地方都市の、さらに少し郊外にあった
周りは学生の住むアパートや民家があったが、実里ちゃんの住むアパートは、ベランダ側が倉庫、出窓側がブロック塀で、人に見つかるリスクは少なかった
初めて覗いた時から、実里ちゃんには彼氏がいた
ひとつ上の先輩だった
ちなみに、僕は一浪していたから彼氏とは同い年だった
実里ちゃんのことは、好きというより憧れだった
とはいえ、彼氏と一緒にいる場面を見るのは少なからずショックだった