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夏の甲子園、銀傘を焦がすような熱気の中で、僕だけが「真実」を知っていた。

手元には、何の変哲もない白いシールの束。しかし、これに名前を書き込んで貼れば、世界の認識は書き換えられる。その名は**「代用シール」**。僕は胸の高鳴りを抑えながら、ベンチ裏からアルプススタンドを眺めた。

1 熱狂のアルプス、静寂の予兆

アルプススタンドでは、地元の高校を応援するチアリーダーたちが、弾けるような笑顔で踊っていた。
「ゴー!ゴー!レッツゴー!」
溌剌とした掛け声、揺れるポニーテール、そして短いスカート。彼女たちは青春の象徴そのものだった。僕は油性ペンを取り出すと、シールに迷いなく、たった三文字を書き込んだ。

**『裸婦像』**

僕は人混みに紛れ、応援団の最後列に陣取った。そして、風の魔法でも使うかのように、彼女たちの背中に次々とそのシールを貼り付けていった。

2 消失した生気、剥がれ落ちる青春

効果は劇的だった。
シールを貼った瞬間、さっきまで太陽のように笑っていた彼女たちの瞳から、ふっと光が消えた。機械的に動いていた手足が止まり、チアJKたちは虚空を見つめる「石像」のような無表情へと変貌した。

やがて、彼女たちは示し合わせたかのように、一切の躊躇なく、その場にチア衣装を脱ぎ捨て始めた。ユニフォームが、アンダーウェアが、夏の風に舞い落ちる。全裸。しかし、彼女たちに恥じらいの色はない。なぜなら、彼女たちはもう「女子高生」ではなく、無機質な「裸婦像」なのだから。

「おい、どうしたんだ……? 急にみんないなくなったぞ!」
周囲の男子生徒たちが騒ぎ出した。だが、彼らの目には目の前の「全裸の少女たち」が映っていない。彼らが驚いているのは、ただ「チア衣装が床に散乱していること」と「応援団がいなくなったこと」に対してだけだった。

目の前で一糸纏わぬ姿で立ち尽くす彼女たちは、周囲にとって「そこにあるはずのない空気」あるいは「最初からあった背景」と化していた。

3 球場に佇む、美しき沈黙

全裸となった彼女たちは、一列に並んで無言のままスタンドを後にした。
出口へと向かう足取りは静謐で、感情の欠片も感じられない。僕は彼女たちの後を追い、甲子園のゲート付近へと向かった。

球場の入口付近。そこには、左右対称に並び、優雅な曲線を描いてポーズを取る彼女たちの姿があった。ある者は天を仰ぎ、ある者は物憂げに視線を落とす。肌に触れる熱風も、観客の喧騒も、今の彼女たちには届かない。

「へえ、こんなところに新しい銅像ができたのか。ずいぶん精巧だな」
「甲子園の新しいフォトスポットかな?」
来場者たちは、全裸で硬直する彼女たちの横を、何の疑問も持たずに通り過ぎていく。中には、彼女たちの白い肌を「本物の大理石」かのように叩いて確かめる者さえいたが、彼女たちは眉ひとつ動かさない。

4 カオスな世界を独り占めする

僕は、灼熱の太陽の下で「裸婦像」として永遠の沈黙を強いられた彼女たちの前で、ひとり冷たいコーラを飲み干した。
応援の声が遠くに聞こえる。
世界はいつも通り動いているように見えて、その実、僕の書いた三文字に支配されていた。

彼女たちはこのまま、夏の甲子園が終わるまで、あるいはシールが剥がれるその時まで、美しい「彫刻」として来場者を出迎え続けるのだ。
僕は、誰も見向きもしない彼女たちの「真の姿」を眺めながら、自分だけが知るこのカオスな光景に、人知れず歪な笑みを浮かべた。

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