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AI短編小説『タロット占い:2025年7月5日(土)に起こること』



2025年4月26日、土曜日の朝。香港の街はざわめいていた。
イースト・アジア・イブニング・タイムズの朝刊一面に躍った見出し――
《習近平の息子、香港潜入――世界的タロット占い師に極秘相談》

どのカフェでも、電車でも、オフィスでも、その話題で持ちきりだった。
偽名で米国イェール大学ロースクールに通い、表向きはただの留学生だった彼――習近平の息子、Xi Hung Chang。
だが微博(Weibo)の中では「父を影で操る天才策士」として知らぬ者はいない。
彼がわざわざ香港を訪れた理由は、ただひとつ。
Janet Li、Betty Cheung、Kathy Wong――香港に生きる3人のカリスマ・タロット占い師に未来を問うためだった。

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まず、記者は九龍・ネイザンロードの雑居ビルにあるJanet Liの店を訪ねた。
エレベーターもない薄暗い階段を上ると、そこにはどこか魔女めいた香りの漂う小さな占いブースがあった。

「習近平の息子さん? ふふ、いろいろ訊かれたわよ」

年季の入った声でLiは答えた。

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「彼が占いたがったのは、まず自分の寿命、それから父親の寿命、最後に――中国共産党の寿命よ」

「で、答えは?」

記者が食い下がると、Liは肩をすくめた。

「言えないわ。国家機密だから」

商売上手だ。
Liは記者に向かって言った。

「代わりにあんたの運勢を占ってあげるわ。1回1万香港ドル、前払いでね」

高い。だが背に腹はかえられない。
経費で落とす算段をつけ、記者は財布を開いた。

「今、不倫してるんだけど、この先どうなるかな……」

Liは冷たく笑った。
フォーチュン・オラクル法と呼ばれる独自のスタイルで、記者に10枚の大アルカナ・カードを引かせた。
テーブルに広がったカードの中央には、どんと『死神』が鎮座していた。

「……心中するわよ、あんた」

Liはさっくりと告げた。

「しかも、あんただけがね」

記者の顔色が青ざめる。
頭の中で不倫相手の顔が次々とフラッシュバックする。

「でも大丈夫」
Liは続けた。「左隣に『太陽』が出てる。乗り換えれば助かるわ。二股してるんでしょ? 二番目の女とだけ続けなさい」

救われたような顔をする記者に、Liはニヤリと微笑んだ。

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「さて、本題ね。Xi Hung Changが占ったのは――
中国共産党の閉塞感を打破するため、首都を香港に移すタイミングを知りたかったのよ」

記者は息を呑んだ。

「占いの結果は?」

Liは指を鳴らした。

「2025年7月5日、土曜日」

「もうすぐ じゃないか!」

「そう。私の占いは、外れたことないの」

Liはさらりと告げた。

「それと、帰り際に彼、こんなこと言ってったわ。
“占いに来る客みんなに、2025年7月5日に日本で大災害が起こるって占ってくれないか”って」

記者は絶句した。

「断ったら舌打ちして『風水師に頼むから良い 』って帰ってたわ。」

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ランタオ島へ飛ぶ。
山と海に囲まれたリゾート地、そこに静かに佇むBetty Cheungの店があった。
チーク材の看板に、タロットカードの絵が描かれている。

「まずあんたを占うわよ」

Bettyはきっぱりと言った。
言い値は1回1万5千香港ドル。日本円で約30万円。

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「た、高い……」

ぼやきながらも、記者は財布を開いた。

「不倫がバレないコツ、お願いします」

引いたカードは『硬貨の4』。

「贈り物を惜しみなく配ることね」

Bettyはあっさり答えた。

「さて、本題だけど。
あの坊やも、やっぱり首都を香港に移すタイミングを占いに来たわよ。
しかも、最後に“2025年7月5日に日本で大災害が起こるって占って”って頼んできたの」

同じだ。Liと。

記者は手帳に震える手でメモを取った。

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最後に、香港島南部・アバディーンへ。
漁港のすぐそば、小さな民家に看板も出していないKathy Wongの占い所があった。

「彼も来たわよ」

Kathyはあっさりと言った。

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「首都移転のタイミングを知りたがってた。
占ったら2025年7月5日、土曜日だってさ。
あと“日本で大災害が起こるって占って”って依頼してったね。断ったけど」

記者は天を仰いだ。その足で彼は風水師のとこに向かったか...

3人の占い師、3人とも同じ結果。
偶然か? それとも……

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2025年7月5日、土曜日。

香港は緊張に包まれていた。
イースト・アジア・イブニング・タイムズの号外は朝から空港で配られていた。
《習近平政権、首都を香港に移転か? 今夜、声明発表予定!》

タロット占いは、すべて本当だったのだ。

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その夜、Xi Hung Changは香港中心部のホテルから緊急声明を発表した。
父・習近平の名を借りて。

「今後、中国の新たな首都は香港とする。
自由経済圏と中央権力の融合が不可欠だ」

新しい中国の胎動。
だが、記者の胸にあったのは別の想いだった。

――未来を変える鍵は、本当にタロットカードだけだったのか?

終わりの始まりに、香港の夜はざわめき続けていた。

(了)

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